【エッセイ第18回】

みつばちまーやさん

「やっとたどり着いた真実」

こんにちは。みつばちまーやです。お上品でおしとやか。誰もが私をそう言います。(ん?)そんな私ですが、子ども時代はとっても自然に恵まれた環境の中で育ちました。まぁ、解りやすく言うと田舎ってこと。アハハ…夏になれば外で虫とり、ザリガニとり、朝4時に起きてカブトムシとり、川に足を突っ込んで川遊び、などなど…。ホント、真っ黒になって遊んでいました。

15年前の春、桜が開きかけた頃、元気な男の子を出産、母になりました。新米母は、新生児の中でも人一倍大きな声で元気に泣く我が子に、”大きくなったら一緒に虫取りしたり、外遊びしようね!”と、幸せな未来を夢に描いたのでした。

月日は流れ…、1年前。息子が14才の誕生日を迎える直前のことでした。私は、とある医療センターの一室で医師と向い合っていました。

「子どもが家以外で全く喋らないんです。」

私はここに来るまでの経過を話し、医師からいろいろな質問を受けました。しばらくして、その質問は私にとって意味不明なものに変っていました。

Dr. 「算数で計算する時に、独自の計算方法をしていませんか?」

そう言われてみれば…、かけ算する時、私が『紙に書いて、筆算で計算しなさい』と言っても、頭の中でやってたことがあったな…

私 「はい、自分のやり方で計算していること、ありました。」

Dr. 「小さい頃、会話で言っていることが食い違ったりしませんでしたか?」

たしか…昔、友達のお母さんに話しかけられた時、全然違う返事して、『そういう事を聞いてるんじゃないでしょ』って言われたことあったっけ…

私 「4歳の時に、聞いた事と全然違う返事をしたことがありました。」

医師はしばらく考え込んでいました。が、私に向ってこう言いました。

「お子さんは、お母さんの育て方や環境でこうなったのではありません。」「お子さんは知的障害のない特定不能の自閉症、非定型自閉症です。」

そして、私の目をまっすぐ見てこう言ったのです。「この障害は、治ることはありません。」と…。

私は、医師の言っていることが全く理解できませんでした。息子は小さい時は普通に喋っていた。大きくなるにつれて、人前で話さなくなっていったのです。治らないってどういうこと?その時の私は、『障害』のことに、あまりにも無知だったのです。

けれど、思い起こせば、小さい頃から、いつも心配ばかりしてきました。何か行事があるたびに、他の子は楽しみでワクワクしているのに、この子は緊張でこわばっている。体格は誰にも負けないのに、運動神経がない。手先が不器用なのも気にはしていました。でも、一番心配だったのは、同年代の子と遊んでいても、”心が通っていない”と感じていたことだったのです。

いったい、何なんだろう?私の育て方のどこが悪いの?この家の環境に何か問題があるの?そんなに変な育て方してるつもりはない。大切に、大切に育ててきたのに…。

自問自答を繰り返し、いつしか、親としての自信さえ失いかけていました。

幼稚園、小学校と、ずっと担任の先生には相談してきました。いつも返事は「そのうち、成長していくでしょう。」「彼は彼なりに成長していますよ。」「お母さん、心配しすぎですよ。」

私の考え過ぎなのか…。本当にこのままでいいのか。重い不安はズッシリと心の底に置きざりにされたまま、為すすべもなく時間だけが過ぎ、その不安は消えることはありませんでした。けれど、高学年になるにつれてどんどん、級友と関われなくなっていくように見えました。そして中学生になり、学校で一言も声を出さなくなったのです。

「行きたくない!」そう言う息子を説得して、児童相談所も行きました。検査の結果、「病気ではない…と思います。」「ゆっくりコミュニケーションの練習をしていきましょう。」と言われてしばらく通いましたが、何も変りませんでした。その後、色々な所で相談して、最後にたどり着いたのが、この医療センターだったのです。

ここまで来るのに、ほんとうに長い道のりでした。

頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなっていた私に向って、医師は言いました。
「出来ないことを無理にさせようとするためにエネルギーを使うんだったら、その分、得意な事を伸ばしてあげてください。」

今までの私は、幼い頃の元気で明るかった息子を思い出しては、”こんなハズじゃなかった。どうしてこうなってしまったのだろう…”と、目の前にいる息子を受け止めてあげられなかった。でも、真実を知り、本当の息子の姿を受け入れることが出来た時、気づいたんです。

言葉は少ないけれど、本当はイッパイ、イッパイ、感情はあるんだということを。少なくとも、私には話をしてくれるし、一緒に笑っている。長い休みになると、息子の表情は穏やかになっていきます。

出来ないことばかり責めていても、どんどん自信を失くしていくだけ。この子がダメになってしまう。この子の好きなこと、得意なこと、そこを伸ばす手助けならできるかもしれない。

やっと、そんなふうに思えてきました。

今まで、障害とは無縁の世界の中で、居心地の悪さを感じながら、必死に追いつこうと無理してた。心の底の苦しみを、誰にも言えなかった。でも今は、親の会でたくさんの人に出会い、いろんな生き方を知った。分かり合える仲間がいる。何をするべきかが解った今、もう迷わなくていい。少しずつだけど、前進して行こう!

これからが、本当の意味で長い長い”試練の旅”が始まるのです。

この子たちの居場所を見つけるために。



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