【エッセイ第27回】

うさこさん

「うさこのサンタクロース」

皆様こんにちは。私の名は”うさこ”。名前を何にしようかなぁ?と考えていた頃、ふと本棚にあった1冊の絵本が目に止まった。タイトルは『うさこの○○○○』そうだ!うさこにしよう。思えば、この本は私が就職して初めて購入した、思い出の1冊だった。絵本の内容はもちろん、絵も大好きで、まさに一目惚れ。今でも、この作者の絵を書店で見つけると買わずにはいられない。そんな私にぴったり!めでたく”うさこの誕生”となった。

うさこが妊婦だった頃、こんな話を耳にした。

子供って、すごく小さいうちなら、お腹の中にいた時の記憶を覚えていて聞いたら話してくれるんですって。

そこは夢見るうさこ。「いつかそんな日が訪れるのかしら…」と子どもとお話する日を心待ちにしていたのでありました。

子うさぎが生まれてからは、育児日記をせっせとつけていました。でも…、それが1週間に1度になり、1ヶ月に1度になり、いつの間にか、ページは真っ白になっていました。気がついたら、書けなくなっていたのです。子うさぎに新しい言葉も、新しい発見も見つけられなかったから。

いつまでたっても増えない言葉。1つ覚えると1つ消えてしまう言葉。まるで、入れる引き出しの数が決まっているかのように進歩の無い言葉。なぜなの?どうして?不安な気持ちを『個人差』という言葉でごまかしていたうさこ。そんな毎日の中で、とうとううさこ子うさぎを連れて療育相談へ向い、子うさぎに”障害”がある事を知りました。

泣き虫うさこが重い現実に打ちひしがれて、泣き暮らした3日目の事。子うさぎは、号泣するうさこを心配するかのようにジッと見つめ、そしてギュッと抱きついてきました。これじゃあいけない!決して子うさぎの前では泣かないぞ。これをきっかけに泣き暮らすことを止め、目を真っ赤にしても、ニコニコうさこになりました。

そんな張り詰めた気持ちから1年が経ち、子うさぎの障害が判ってから、初めての誕生日がやってきました。それまでの誕生日と違い、心の中には何か辛い気持ちも感じながら…。そんな時、子うさぎが通う園のお母さん達が「子うさぎちゃん、お誕生日おめでとう!」と次々に声をかけてくれました。その気持ちがあったかくて、うれしくって、それまでの、どこか辛かった気持ちに魔法をかけてくれました。おかげでうさこは、あたたかい気持ちでこの1日を過ごす事ができました。

普通の子とはちょっと違う子うさぎとの生活にも慣れて行きました。子うさぎの様子に一喜一憂する毎日。悲しい日もあれば、苦しい日もある。思わず怒ってしまいたい日も、たくさん、たくさんありました。その中で、ご褒美のように嬉しい日がたまにやってくる。そんな月日が過ぎてゆく中で、また子うさぎは誕生日を迎えました。

でも不思議なくらい、うさこは辛くはありませんでした。そして、悲しくもありませんでした。子うさぎが生まれた日を懐かしく思い出し、心から「おめでとう」と思えるうさこが、そこにいました。そして、そんな自分をとてもうれしく思いました。

この2年、子うさぎがちょっと変わった子であったおかげで、うさこはいろんな人に巡り会えました。同じ様な子を持つ母たちのあたたかい心や、先輩母たちのキラキラ光るステキな姿に元気をもらいました。いろいろな人たちに巡り会えた事をありがたく感じ、そんなステキな人たちに出会えたからこそ、こんなうさこでも、今日までやってこれたのかな?と思ったのです。その事に気づかせてくれた子うさぎ。ステキなプレゼントをたくさんくれた子うさぎはやっぱり『うさこのサンタクロース』だと思ったのでした。

初めて泣いたあの時も、そして去年の誕生日も、もちろん今年の誕生日も子うさぎはサンタになって、ちゃんとプレゼントを届けてくれていたんだね。子うさぎの障害を知った時、思わず”この子を産まなければ、こんな辛い想いをしなくてもよかったのに…”そんな事を考えたうさこでした。子うさぎが居なかったら、泣いたり、苦しんだりする事も無かったかもしれない…。でもそれ以上に、笑ったり楽しんだりする事もなかったんだ。

うさこにとって子うさぎは、やっぱり大切な大切な宝物だと思いました。かけがえのない宝物、その事に改めて気がついたうさこでした。

障害なんて関係ない、あなたはあなただよね。これからもいろんな事を一緒にしようよ。そしてたくさん遊ぼう。たくさん笑おう。だから、これからも『うさこのサンタクロース』でい続けてね。

いつの頃からか、目を背けていた日記を、2年前のあの日から、ふたたび書き始めたうさこ。時々怠けてしまうけれど、でも前とは違うよ。ノートは白くっても、”子うさぎからの信号をキャッチしなくっちゃ…”そう思って、今日も耳をピンと立てているんだよ。でも信号をキャッチするのは、まだまだ難しい。そうそう、うさこの耳も時には故障するかもしれない。父さんうさぎにもキャッチの方法教えなくっちゃ。

うさこは今日も大忙しです。



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