【エッセイ第30回】

24時間営業中さん

「息子との生活で思うこと」

自閉症との疑いと診断され、我が家の生活は一変しました。最初はもちろんショックを受け、妻ともどもとてつもなく落ち込みました。

果たして、これは不幸なことなのだろうか?

先行きの不安は大きく、あまり楽観論はいえません。彼の人生には、圧倒的に不利なことは言うまでもないでしょう。しかし、とてつもなく忙しい会社に勤務し、家族を顧みることは悪とされる環境にいる私は、もしかして、何もなかったなら、育児を全て妻に任せてしまったかもしれないと思います。妻には怒られるかもしれませんが、そういう意味では、息子に障害があって良かったとさえ思えます。

2000年、夏(なんと私の誕生日)ドクトル・JOJOに宣告(診断)され、半年間、会社に頼んで毎週水曜日を休みにしてもらって、新潟まで訓練に通うことになりました。当時、長岡に在住、勤務地は十日町市。妻は運転不能のゴールド免許。本人4歳直前、娘5ヶ月。

家族4人で、水曜の午後1時幼稚園に息子を迎えに行ってはまぐみに通いました。その後、会社で希望が通り、新潟市へ転勤。妻も優良ドライバーに成長し、本当に生活は一変しました。

幼稚園、小学校、教育委員会との話し合い。現在は、普通学級でなんとか過ごしているアスペルガー児ですが、毎日、皆様と同じく大変な日々で、正直言えば、先の不安も、中学〜高校(?)、就労とどうなることやら…と心配です。

ここまでは経過説明でしたが、実は私自身、アスペルガーの考え方が非常に理解出来るのです。

社会に溶け込むことに、現在まで特に支障はなかったので、障害には当てはまらないと思いますが、息子の立場に自然に立てる自分がいます。

私は非常に忘れ物が多く、部屋の片付けが苦手で、おしゃべり、更に人の話を聞くことが出来ず、よく怒られます。子供のころはファンタジーの傾向強く、自分で言うのも何ですが、一人遊びの天才でした。

息子と、何が違うか?といえば、8歳上の兄が、全て私のわがままを聞いてくれ、いつでも私の遊び相手になってくれたことが大きかった。ほとんどの遊び、勉強を教えてくれたと言えます。また親戚も近所に多く、年上ばかりだったので、ひょうきんな子供を演じていれば良かったことも、恵まれていたのかもしれません。(もちろん、物心ついたときから「心の理論」はあったと思うので、障害ではないと思いますが、ADHDは当てはまることも多く、ちょっと心配?だったりして…)

だから…息子の行動は、妻ほどは気になりません。仮面ライダーの真似で、公園で知らない女の子に「ファイナルベント!」と大声で叫び、ゾンビのような爪を立てた格好をしても、仕方がないと思えます。他の人の来るところに連れて行った自分たちが悪いのだと思います。息子はいけないと分かっていても、ついやってしまうのだから。

私には、実家の庭と自分の部屋が、誰にも(兄にすらも)邪魔されない遊び場でした。仮面ライダーごっこは1人10役、侍ジャイアンツ以上の魔球を考え、リングにかけろ(一部の人にしかわからないか)以上のパンチを考えることをずーーっとやってました。

字を書くのは面倒なので、常に頭の中でやっていました。推理小説にハマったので、トリックはいつも考えていたし、明智小五郎の自分だけの作品を創作したり…。これが中学、高校になると、スターウォーズ、プロレスとただ変わっていくだけのことです。

私が奇人扱いされなかったのは、「道を究めたこと」と、その当時の「メジャーな分野を押さえていた」からに過ぎません。また、当時から『おたく』と呼ばれるのが嫌で、アイドル好きだけど洋楽も極める、といったバランスをとっていました。だからアニメファンになり過ぎないように、高校時代は気をつけていました。

例えば、野球は今でもロッテの8番は誰か知っています。(普通は野球に詳しい人でも、たぶん知らないでしょう)中学生のころは、甲子園の予選の成績をチェックして、誰がドラフトにかかるかも全部知っていました。

これが鉄道に向いたら鉄道オタク(ごめんなさい)80年代に野球、アイドル、洋楽、映画に詳しければ、人との違いは感じながらも、何とか多数派の一員になれました。不思議なことに大学、社会人になるとこの趣味が、逆に武器になるからおもしろいものです。

息子が私のようにはいかないとは分かっています。でも兄におかげで漫画を覚え、野球を覚え、映画を教えてもらい、スターウォーズにハマり、プロレス好きになり、今の自分があります。

だから私は、息子にかけがえのない好きなことを見つけて欲しいと思っています。

好きになれば集中力は桁はずれ。あーっと言う間に極めます。今息子は折り紙に夢中で、1日何十枚と折り続けています。不器用なはずなのに、大人顔負けです。

仮面ライダー龍騎も、TV放送では見向きもしなかったのに、設定資料集を買い与えれば、細かいセリフまで覚え、通りすがりの人にも、夢中で説明します。モンスターの真似は良くないかもしれませんが(何故か悪役に惹かれるみたい)今の子供たちに人気のものにハマれば、その作品を通して話し相手が出来ます。友だちではありません。でも、その話し相手は息子の知識が深いほど、大事にしてくれるはずです。そこから友達になれるかもしれないし、少なくとも、社会性は学べるのではないかと感じています。

一番恐れているのはTVゲームとパソコンです。これは自己完結な遊びなので、わがままを助長させるだけと考えてますが、小学生のコミュニケーションの一番手段でもあるので困りものです。

中学年になったら、カードゲームにハメさせて、父と息子で対戦したいと思っています。(昔の将棋ですね。)社会問題にもなっていますが、TVゲームより何十倍も健全と思っています。ゲームマスターにしたいと思っています。キャラクターの武器や特徴を覚えるのはピカイチでしょうが、相手の心理を読むなんて出来るはずないから、きっと弱いでしょうね。

とりとめもないことを書いてしまいましたが、自閉症親の会に参加させていただき、妻ともども強い先輩たちに励まされ、何とか毎日を生きています。これからも御指導をお願いします。

最後に、私の好きな言葉は「絶望から始めよう」です。前向きに考えると、絶望はスタート地点としては非常に適切です。学生時代から大好きな劇作家の鴻上尚史さんの考え方です。「変に希望があるから苦しくなる」という考え方です。現実になるとヘヴィですけど、今の事実を受け入れて、そこから一歩を踏み出すことが大事と教えてくれる言葉です。

待っているのはイバラの道でも、逃げることは出来ないのだから、イバラの長さを学んで、イバラを伐るナタを用意したいと思います。先輩たちから、イバラの長さぐらいは教えてもらって。何年後かには、後輩たちにイバラの上手なよけ方が教えられたら…と思い、この拙文を終わります。

追伸:勤務先が「あいててよかった!」でおなじみの24時間不夜城の会社なので、わかりやすく、このハンドルにしました。



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