【エッセイ第32回】

ジャイアントさん

「妻へ、私の気持ちです」

昼はセミの声、夜はカエルの声、夏の暑さが非常に厳しかった7年前、妻はもうじき出産という事で、実家に帰り、私は、久しぶりの食っちゃ寝、食っちゃ寝。優雅な一人暮らしを楽しんでいた。

夏も終わりに近づき、出産予定日も間近という事で、会社から有給休暇をもらい、新しくエアコンを取り付けた妻の実家へと3日間の滞在生活をする事に決めた。その2日目の深夜、産気づいた妻を助手席に乗せ、「いよいよお父さんになるんだ」喜びと不安を胸に病院へと向かった。

出産まで立ち会いができる、この病院。難産で苦しむ妻の横でオドオドしながらも、力一杯手を握り、我が子の第一声を待ち望んだ。9時間後ついに、高らかな産声をあげ、手のひらサイズの小さなかわいい男の子が、感動と共に、私たちの前に姿を現してくれた。

ショベルカーが大好きな私の長男。今では7歳、小学1年生。「何歳ですか?」という私の問いかけに、ソッポを向いてこう答えます。「ロクサイデス」こんな長男に、今では笑って「7歳でしょ!」と教えてあげている。

私の性格は、物事を深く考えない楽天家で、長男が2歳になっても言葉が少なく、問いかけに反応がない事に気づき始めた頃も、妻の心配をよそに、「大丈夫だよ。だって耳も聞こえているし、目も見えている。ちょっと遅れているだけで、じきに追いつくよ。」と離れた所で手を叩き、長男の反応をうかがいながら、強気な事を言っていた。

そして1年が過ぎ、3歳を過ぎてもあまり進展のなかった長男に、さすがの私も不安と焦りの気持ちが湧き出し、妻と一緒に診断を受けに行った。

この日から、私の目の前は真っ暗になり、これから、この子とどのような生活を送ればよいのか、何故、私たちの子どもが・・・。あたり場所のない悔しさと不安で、頭が一杯になっていった。

その年の12月、ほっぷ・すてっぷクラブのクリスマス会に初めて家族で参加した私は、たくさんのレクリエーションで、久しぶりに長男と楽しい時間を過ごすことが出来た。そのクリスマス会の最後に、『天国の特別な子ども』という勇気づけられる詩を紹介され、これまでの人生に転機を迎えるような、大きな衝撃を受けたのを覚えている。その詩の言葉ひとつひとつが、落ち込んでいた私の胸に響き、そうなんだ!キョロキョロしながら膝に座っている私の長男は、特別な子どもなんだ。大事に育てるんだ。丁寧に育てていくんだ。

この詩と出会い、本来の楽天家の自分が蘇ってきた。

このままではいけない。これからは、物事を深く考える事の出来る楽天家に生まれ変わらねば、と、熱い気持ちが込み上げてきたのを覚えている。

あれから4年、こんな気持ちで子育てをしてきた私である。

何とか長男を自立させようと、沢山の本を読み、あらゆる勉強会に参加して、一生懸命に子育てをしている妻の姿を見て、尊敬すると共に、感謝をしている。気持ちでは分かっているつもりの私だが、妻にとっては不満で一杯でしょう。もう少し肩の力を抜いてもいいかなあ、とも思うのですが、これからは私も、もっと本を読み、絵カードも使い、長男の過ごしやすい環境作り、そして家族全員が過ごしやすい家庭作りに力を注いでいきたいと思っている。

25年後、大好きなショベルカーに乗って仕事をしている長男に二人でお弁当を持っていきましょう。そして、「父ちゃん、母ちゃん、もう少しで還暦か?」と笑わしてくれることを夢見て、これからも、ずっと仲良く頑張っていきましょうね。

ハンドルは、私の身長182センチ、82キロから、ジャイアントに決めました。よろしくお願いします。


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