【エッセイ第50回】

ポチさん

「いつの日か、兄弟なかよく」

小学校から短大まで、私のあだ名は『ポチ』。なぜそんなふうに言われるようになったのか……休み時間にふざけて、花咲かじいさんのポチ役になったからか?ただ単に犬に似ていたからか?友だちも私もハッキリとは覚えていません。でもこのあだ名、短大入学の際には「私のこと、ポチと呼んで!」と、自ら宣言したくらい、とても愛着あるものになっていました。何不自由なく、両親に見守られながら育った娘時代。それを象徴しているかのような響き。私にとって懐かしく大切なこのあだ名を、ハンドルにしました。

そんなノホホンとした私も今では二児の母。上の子が養護学校小学部3年の男児・Tです。幼少時は情緒が不安定で、いつも泣いて、私にしがみついてばかりいたT。そんなTが“お兄ちゃん”になったのは昨年のこと。

自分より小さな子どもが苦手なTだけど、そこは血を分けた弟。しかも赤ちゃんが相手なら少しは違う反応があるのでは?と期待していましたが……

やはり苦手なものは苦手でした。

まず出産後、退院して家に帰った初対面の場面。クーファンに入っている赤ちゃんをチラッと見ただけで、奥の部屋へさっさと逃げていってしまいました。ちなみに入院中は、産婦人科の病院には絶対に入りたくないと、会いに来てくれませんでした。

実家に世話になっていた間、Tが赤ちゃんを「間違って踏んだら大変」と、母が赤ちゃんのいる和室の扉に簡単な錠を付けてくれました。ところが、そんな心配は無用だったようで、Tはその部屋には全く近づきません。「さっぱり触りに来ないのも困るねぇ」と、一度も使わなかった錠に目をやりながら、母は嘆いていました。

とにかく同じ部屋に一緒にいることが苦痛らしいのです。

ネンネの頃は赤ちゃんを指さして“あっちの部屋で寝かせて!”と合図。ハイハイの頃はおんぶひもを私に手渡して“チョロチョロさせないで、おんぶして!”と合図。アンヨの現在は頭をなでてくれます。といっても可愛いからではなく、“イイコイイコしてあげたから、あっちへ連れて行って!”の意味なのです。

そんなビミョーな生活の中でもTが赤ちゃん用のラッパを笑顔で吹いたり、時々だけどパパと弟と3人でお風呂に入ることができたり……。

時の流れが、自然な兄弟関係を、少しずつ育んでいってくれたら、

と……切に願っています。



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