【エッセイ第55回】

おはママさん

「通せんぼ」

私のハンドルは、おはママです。毎朝の挨拶「おはよう」が上手に言えない息子(中2)に合わせて、私も声を合わせ、「おっはーよう!」と一緒に学校へ通っています。お友だちに笑顔であいさつ。さわやかな気持ちになれます。今ではそんなふうに思える朝を向かえ、学校へ登校している私たち親子ですが、過去には、ちょっぴり・・・いいえ、随分、傷ついたこともありました。それは、小学校時代のこと、息子が通っていた学校までは、大きな通りはないのですが、路上駐車の車が歩道をふさぎ、おまけに交通量の多い交差点もあって、小さな児童たちを一人で歩かせることはできないような通学路でした。

交差点の所で工事の交通誘導員のような人が、手信号で交通整理をしています。それは、児童たちの安全確保のため、朝早くからボランティアで頑張っているS先生でした。S先生は、毎朝、児童たちとジャンケンポンをしたり、息子と私が「おはようございます」と道を渡ろうとすると、両手を広げて大の字になって「だめだめ」と言って通せんぼをするなど、傍目にはとても茶目っ気のある先生でした。けれど、私は、S先生のどこかに、何かしら不安を感じていました。

はっきりわかったのはPTAのソフトボール大会のときのこと。先生チームVS保護者チームバッターボックスに立ったS先生。ジャストミート!したボールは、よける間もなく私の顔面に「バシッ」と衝突したのでした。ところが、S先生は大爆笑。「謝りなさい。」と、教頭先生が諭すも、「ごめん、ごめん」と、ただ繰り返すのみ。やはり、どこか、ズレていませんか?まさか、ワザと狙ったわけではないでしょうけれど、何となく、いじめられているような気がしてなりませんでした。毎朝、必ず、あの交差点で顔を合わせることもとても気が重たかったのです。

そんなある日、過去10年間の要望が通り、その交差点に信号機が設置されるはこびとなったのです。全校の3分の2の児童が渡る横断歩道です。皆大喜びでした。

ところが…いざ信号機が付つくと、待ち時間が長く児童たちは大騒ぎ。待ちきれず、道路に飛び出したり、ふざけて走り回ったり、中にはけんかをする子どもまで…。結局、数人の保護者で、下校時の見守りボランティアをすることになりました。慎吾ママならぬ信号ママになって大変でもあったけれど、子どもたちとも仲よくなれて良い経験でした。

息子はと言うと、信号機は目で見て分かりやすかったのか、一日目から一人でサッサと向こう側へ渡ってしまい、母はこちら側の歩道に取り残されるはめに…。信号が「赤」になってしまってのアッチとコッチ。私の元に走り出して来てしまうのではないか、とそれはそれは心配しましたが、ちゃんと、向こう側で“きをつけ”して、待っていてくれました。

息子は、今でも信号機のない横断歩道は渡れないのです。免許はあるものの、車の運転をすることができない私と同じ?勇気が足りないのかな?こんな親子ですが、前向きに明るさだけは持ち続けて、また、通せんぼされるような辛いことがあっても、頑張っていこうと思っています。



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