【エッセイ第68回】

てんてんさん

「衝撃の出会い」

人が人と出会うのにも、いろいろな出会い方があるのだろうけれど、「今までに出会ってきた人たちの中で一番印象的な出会いは?」と聞かれたら、私は迷うことなく、自閉症のMさんとの初顔合わせを思い浮かべるだろう。

平成11年の春のことなのでそれほど昔のことではないのだが、こうまで鮮明に記憶に焼き付いている理由は、出会いのインパクトだと思っている。新しい学校(県立T養護学校)に赴任して5日目、始業式の日に全く予想をもしない形で、私は担任する女の子と出会った。事前の情報としては、『小学部5年生の女の子・自閉症で両耳難聴のある、ちょっと難しい子』ということだった。

(重複学級でマンツーマン、大丈夫かな…)(うまく関係を作れるかな、最初が肝心だしなぁ…)

期待+不安で、これから彼女と過ごすことになる教室に入ると、聞こえてきたのは大きな泣き声。寝ころんで泣くその子の傍らに立つお母さんらしき人は、怒ったような表情…。

「Mさん、新しい先生だよ」近づいた私にいきなり唾を吐きかけて、両手でバツサイン!!グーで自分の頭を叩いて、泣き声をあげる。…あまりの状況につい静観していると、何やら手でサインを出しながら誰かを呼んでいる感じ…。お母さんによると、彼女は前担任を呼んでいるとのこと。『おまえじゃない!』と、思いっきり全身で拒否された出会いであった。

ところが、私は何故かMさんに好ましさを感じ、思いっきり拒否されながらも、波長が合うような予感がした。今考えても不思議である。その場に一緒にいた重複学級のもう一人の先生は、私たちのあまりの衝撃的な出会い方にオロオロしていたというのに。

実はこの出会いには続きがある。担任が代わることを納得できないお母さんが、始業式の後に前担任に訴え、即日「お母さん・前担任・私」の三者面談がとり行われたのだ。(ちなみにこの前担任がH.N大先生である。)その時のN先生のお話で、お母さんが渋々(だと私は思った)私を承認してくれた。しかしそれだけでは終わらず、お父さんにも説明するために、N先生は家庭訪問までしてくれたのだ。そんなこんなで人の力を借りまくり、周りから固めるやり方で私は無事?Mさんの担任になることが出来た。

結果は、というと私の予感は当たっていたようで、Mさんと私は一緒の時間を重ねることが出来るようになり、小学部の卒業までの2年間を共に過ごした。その間に彼女は※マカトンサインでのコミュニケーションを獲得し、裁縫を覚え、今ではミシンを使って洋服を作っている。出来ることもたくさんになった。私の方も、一人の子どもととことん向き合い、その子の将来を考えながら今やるべきことは何かを考える、という姿勢を学んだ。

強烈な出会い、でもとても貴重な出会い。それは今の私の教師としての方向を決めた出会いだった、と思っている。

Mさんとのエピソードはそれこそ数え始めたらきりがないのだが、まだお母さんにも本人にも「話していいよ〜」との了解を得ていないので『出会い編』にとどめておく。それにしても担任になるためにこんな体験をした人は、私くらいじゃないかな〜と思うのですが、どうでしょう?

※ マカトンサイン

マカトン法で使用される手指によるサイン。マカトン法とはサイン(身振り)とスピーチ(音声による言語)を同時に使うことによって、言葉の伝え合いを可能にする指導法。



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