【エッセイ第70回】

クララさん

「情緒学級への移籍」

エッセイを書くのは2度目の、クララです。今回は娘について書きます。

昨年、アスペの娘Mが小学校の通常学級へ入学しました。小学校へ通い始めて、Mが家で私たちに伝えたことは「○○先生、『いけません』『します』『やりなさい』」「感謝ってなに?」「幼稚園・保育園とは違います。小学校というところです。」

私もしばらくMに付き添っていたので、その様子は見ていました。入学したての子どもたちは幼稚園・保育園の延長という感じで、ワイワイ・ガヤガヤにぎやかです。先生は“ルール・ブック”。全て言葉で指示されます。登校してからランドセルの中身をしまう手順,上着・帽子をしまう場所,体育館の使い方(ボールを使っていい場所・使える曜日)、 給食の準備・掃除の手順・1日の時間割(時間割が出来るまでの数週間)などなど…

学校でのルールをたくさん教えるため、注意・叱責がとても多いです。お友だち同士でも注意・叱責するようになります。

入学当初は、言われたことに従えることが全てといっていいくらいでした。従いながら身をもって覚えていくという感じです。「そうやって、お友だちと教え合いながら覚えていくのが学校というところです。」と、校長先生もおっしゃいました。自閉のMにとっては辛かったと思います。Mはとてもガンバッテいました。

「授業中は教室を出てはいけない」と、言われていたので、給食の準備中ならいいと思って教室を出ると注意。名簿並び・赤白並び・朝会並び・教室の席順並び…、と、覚える並び方がたくさんあって、覚えられずにウロウロしているとお友だちから注意。自分の並ぶ場所がわからなくって、一番前に並んでしまって注意。やっと列に入ったと思ったら、『前ならえ』で後ろの子に「狭いよ!」と怒鳴られてしまう。とうとう、廊下に出てうずくまってしまうM。先生方にひとつひとつ理解していただき、手だてをしていただいても、次から次にたくさんのことが出てきて、Mはいーっぱい、泣きました。さらに、運動会の練習が始まって、先生の指示はますます多くなり、時間割も毎日、変更。Mの精神状態は限界になり、5月末から登校拒否が始まりました。

Mは話しかけられると不安がり、筆談をするようになりました。“周りはみんな危険だ”と感じているようで、お友だちが何を言っても“注意された”“怒られた”と感じていたように思います。かかりつけの児童精神科を受診。担当医の前でMはこう言いました。「○○小学校は乱暴な学校。みんなはMのことをボコボコにする。」

情緒学級のある校区外の小学校への転校も考えました。でも、幼稚園の頃から「Mは○○小学校」と覚えてきていたので、M自身が転校を強く拒みました。

担当医から「自尊心が心配」ということで、通院で個別指導をしていただきながら、学校側でも出来ることを少しずつ取り入れてくださいました.担任、教務主任、教頭、校長先生…、たくさんの先生方がそれぞれの出来ることを考えてくださっていました。個別の声かけ、M専用のスケジュール表、個別のプリントの用意、出られない授業の時や、教室に居られなくなった場合の部屋を用意。そして、全校生徒へ「Mへの注意はやさしくしてね。困ったら先生に伝えること」と、校長先生が話してくれました。

こうしてMは少しずつ授業に出られるようになり、3学期の終わりにはほとんどの授業に出られるようになりました。それでもまだ、私の不安は続きました。特に先生のいない休み時間が心配で、Mに付き添いました。もし、何かが起こるとMも辛いし、周りも困惑する。こども同士でのトラブルがエスカレートしないうちに双方の通訳をしてあげないと、理解し合えないと思っていました。Mは、一生懸命周りを気にして、期待に応えようとして、なんとか過ごせているという状況でした。

今、Mは2年生。1年生の夏に、アスペの子どもを持つ保護者3人で情緒学級の新設をお願いし、2年生から情緒学級が出来て移籍しました。Mは当初、通常学級にずっと居ましたが、だんだんと“みんなと一緒がいい”という呪縛が解かれていきました。今は、登校すると教室で先生が待っていてくれて、ボードで今日のスケジュール、時間・場所・内容を確認(3人分ちゃんとあります)。先生が付き添って通常学級へ行ったり、一人で行ったり…。トラブルが起これば何が起こったのか話し合って、トラブルが予想できることであれば、あらかじめMと話し合って授業に出るそうです。私が一番いいなぁ〜と思っているのは、アスペ3人の仲間意識があって、良い雰囲気なこと。5月にMが言いました。「○○教室(情緒学級)が出来て、学校が楽しくなった!」これを聞いてホントにうれしかったです。

1年生の時は二次障害への対処が多かったですが、2年生になった今では自閉症への配慮だけになって、うまくいかないことがあってもM自身がめげて帰ってくることはほとんどなくなり、「お休みしようかな…」という言葉は聞かれなくなりました。トラブルはもちろんあります。でも、“なにかあっても、なんとかなる”と思えるようになりました。(Mもそう思っているんじゃないかな?)なにより、M自身が楽しく過ごせるようになって、本当によかったです(しみじみ)。

昨年は「Mはどうなってしまうんだろう〜?」と家族全員がめげていました。Mの精神状態が悪くなるのはすぐでしたが、元に戻るのにとーっても時間がかかりました。昨年お世話になった方たちに、感謝しています。ありがとうございました。



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