【エッセイ第73回】

ウォーターボーイママさん

「たっくんのこと」

たっくんは今6歳。保育園の年長さん。そして私は自閉症児の母になってもうすぐ3年。

たっくんが診断を受けたのは3歳8ヶ月。入園1ヶ月前のことでした。私に少しでも自閉症の知識があったなら、きっと、もっと、早くに気づいてあげられたのに…。

たっくんは私の初めての子ども。とにかくかわいくて(親バカ!?)育てやすい子でした。ニコニコ愛想がよくて、体が大きくて丈夫。言葉が遅かったけれど、周りには男の子だからと言われ心配もせず、1歳半健診では、指差ししないことを指摘されたけれど、指差ししないことが問題だとは、知らなかった。保健師さんも教えてはくれなかった。

2歳近くなると少しずつ扱いにくくなったけれど、単にみんなが通る反抗期だと思っていた。いくら注意しても、いくら玄関の鍵をかけても、全裸であってもお構いなし、裸足で窓から逃げ出していた。2〜3歳の子どもが母親と手もつながず、毎日2キロ3キロ平気で散歩したり。ジャスコの3Fで迷子になり、1Fで見つかった時も私は半べそだったのに、たっくんは何ごとも無かったかのように平気な顔。どんなに呼んでも振り向かないのに、大好きなCMの音がすると遠い部屋からでも飛んでくる。どんなにびしょ濡れになっても、手が冷たくなってもやめられない水いじり。6歳になった今でも水の魅力にちょくちょく溺れています(苦笑)だからハンドルが「ウォーターボーイママ」なのです。

無知ってスゴイですね。こんなに自閉症の特性が満載なのに、たっくんに何か障がいがあるなんて微塵も思わなかった。

はまぐみで診断された帰りの車の中で、そのとき流行っていた『世界にひとつだけの花』が流れていた。たっくんのことを歌っているようで、涙が止まらなかった。

なぜたっくんが…なぜ私たちの子が…神様は私たちになら育てられると、この子を与えたのか…いろんなことが頭をよぎった。この現実を受け入れるには時間がかかる。でも現実の生活で、子どもたちは待ってはくれない。いっぱい泣いた。涙は枯れないのだ。主人の嗚咽するほどの涙を私は初めて見た。泣くのは今日で終わりにしよう。前を向いていこう。

あの日からもうすぐ3年。いまだ、想いを言葉に出来ないけれど、彼なりの方法で懸命に要求を表現しようとするまでになった。ゆっくり、ゆっくり、たっくんのペースで成長している。春からは特殊学級の一年生になるたっくん。私にたくさんのことを気づかせてくれる。あなたの笑顔が消えないように、いつもあなたに寄り添える母になりたい。



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