第1回 ヘラクレスさん


「持っててヨカッタ!サポート・カード」

私の名前は、ヘラクレス。自分で付けたハンドルではない。
勝手に、イメージされた名称です。体育会系の力持ちということらしい・・・。
最初聞いた時「エッ?!」って思ったけど、今では結構気に入っているんだ。
だってヘラクレスって、強くて優しいのよ。それこそが、私が目指す母親像だもの。
さて、初めのエッセイ人として、恐怖のアミダ籤で一等を引き当て、何を語ろうかと思案ばかり・・・。
なにせ、四字熟語は?と聞かれて、まず思いつくのが「焼肉定食」ですもの。
えっ?四字熟語じゃないって?それは失礼しました。
こんな私ですが、よろしくお願いします。
自閉症の子の母になって9年。最初は、自閉症ってナニ???状態だったけど、
今思い起こすと自分は自閉さんとは結構縁があったようです。
うちは商売をしているのですが、お店の前を時々通る30歳位のお兄さんは、ひとりごとを言いながら、
時にはケラケラと大きな声で笑い、楽しそうに散歩をしている。
初めて会った時は「えっ?ナニ?私に話しかけたの?いや違う・・・。」と私はボーゼン・・・。
長い間、彼が近づくと緊張していましたが、今ではそのいろいろな行動がよく理解できます。
ある時思い切って「こんにちは!」と声をかけてみました。彼は一瞬動きが止まり、
私をじーっと見て、こんな人は知らないって感じで行ってしまいました。
それからは私の方が、彼にとって「何か話し掛けてくる怪しいおばさん」になったようです。
それと、もう十年以上も前になるのですが、確か土曜日だったと思います。
夜も9時を過ぎた頃、お店に小学校5年生位の男の子が入ってきました。
こちらの問いかけには何も答えず、彼は自分自身と会話をしている感じで、お店の中をウロウロ。
その頃の私はその子にどう対処すればいいのか分からず「お家に帰りなさいね」と言い、
その子を送り出したのですが、今度はお店の前でしゃがみこんでしまって動こうとしないのです。
しかたなく、また、その子を中に入れ、何か手がかりになるものはないかと探してみました。
手にはスーパーの袋を持っていて、中にはお肉のパックがひとつ。
なにも手がかりが無く困っていたのですが、
もう一度よく見ると、ズボンにM養護学校の名札が縫い付けてありました。
早速電話をして何とか連絡が取れ、お母さんがタクシーに乗って迎えに来てくれました。
その男の子は昼間、お母さんの知らない間に家を出てしまったそうです。
警察にも連絡して捜してもらっている最中だったと言っていました。
何度かこういうことがあったらしく、お母さんに慌てた様子はありませんでした。
さすが十年選手のお母さんですよね。
そんなお母さんに恐れ多くも「大変でしょうけど頑張って下さいね。」などと言ったワタシ・・・。
今の私だったらそんなことは言わない。充分頑張っているはずだもの・・・。
二人を見送って時計を見ると11時を過ぎていました。
あの時あの子がサポート・カードを所持していたなら、
もっと早く家に帰れて、大好きなお肉を焼いてもらえただろうに・・・。残念でした。
やっぱり、「持っててヨカッタ!サポート・カード」「一人に一枚!サポート・カード」ですよネ。